非認知能力とは?重要性と育つ時期、種類や伸ばす方法を解説
みなさん「非認知能力」という言葉をご存知ですか? 非認知能力とは、学力テストやIQなどでは数値化されない、性格的特徴や人格のことなどを指し、近年教育分野において注目を集めている能力です。そこで、非認知能力の重要性や「認知能力」との影響などを、慶應義塾大学総合政策学部の中室牧子教授に伺いました。
認知能力は、学校卒業後の人生の
成功のほんの一部しか説明できない
――中室教授は幼児教育における「非認知能力」の重要性を提唱していますが、その理由を教えてもらえますか?
前回の記事でご紹介したヘックマンの研究において、質の高い幼児教育を通じて、子供たちが身に付けた能力のうち、将来の成果により大きな影響を与えたのは、(学力テストやIQテストで計測することのできる)「認知能力」ではなく、「非認知能力」だったことが示されています。
非認知能力とは、性格的な特徴や人格のことを指しています。多くの保護者が子どもの偏差値や受験に関心を持っていることからも、多くの人は「認知能力」はとても重要で、将来の学歴や所得との関係が強いと考えているのではないかと思います。しかし、経済学の研究は、2000年前後から、経済学は、認知能力が学校を卒業した後の人生の成功のほんの一部しか説明できないことを明らかにしてきました。例えば、個人の学力テストの変動は、個人の賃金の変動の17%しか説明することができないし、IQの変動に至ってはたった7%しか説明できないというのです。
実際に、私たちも大人になって、社会に出た後に、「勉強だけできても活躍できるわけじゃない」ということを知るわけです。それでは、社会に出た後で活躍するために必要な能力とは何でしょうか。その1つが非認知能力です。前出のヘックマンは、1957~64年の間にアメリカで生まれた子どもを長期追跡したデータを用いて、非認知能力が30歳時点の賃金に与える影響を学歴ごとに推定しています。これによれば、男女や学歴によらず、非認知能力は認知能力と同じかそれ以上に大きな影響を与えることがわかっています。また、ヘックマン教授らは、学歴や所得だけでなく、結婚や健康にも非認知能力の貢献が大きいことを示しています。
将来の学歴や賃金に、認知能力と
非認知能力は互いに影響しあう
――子育てにおいて、認知能力よりも非認知能力を伸ばすことに重きを置いた方いいのでしょうか?
ここで注意していただきたいことがあります。それは、非認知能力が重要だからといって、認知能力が重要ではないとは言えないということです。ヘックマン教授の研究では、認知能力と非認知能力を相互に独立のものと仮定していますが、両方が互いに影響しあいながら、将来の学歴や賃金に影響すると考えています。ある時点で獲得した認知能力や非認知能力が、その後の教育投資の生産性を高め、認知能力や非認知能力を更に伸ばすことの助けになるということが生じるわけです。
例えば、小さいころに勤勉さを身に着けた子どものほうが、のちのち学力が高くなりやすい、というようなことです。ヘックマン教授らは、これを「技能が技能を生む」(skills begets skills)と表現しました。また、ヘックマン教授らは、1957年から1964年に生まれた子どもを長期にわたって追跡した調査を用いて、就学前(0歳から5歳ごろまで)と就学後(6歳ごろから13歳ごろまで)の2期間に分けて、認知能力と非認知能力がどのように影響しあうのかを明らかにしようとしました。
その結果、「技能が技能を生む」傾向は、就学前よりも就学後の方が強くなっていくことを明らかにしています。そして、就学前に身に着けた非認知能力は、就学後の認知能力を伸ばすのに役立ちますが、その逆は観察されないことも示しています。学校教育や親による教育投資は、就学前においても、就学後においても、子どもたちの能力形成の助けになりますが、就学前の方がより効果的です。この理由は、ひとえに「技能が技能を生む」傾向があるからです。早期の教育投資によって認知能力や非認知能力を身に着けておけば、それが将来の教育投資の効果を更に高めてくれるというわけです。
――「非認知能力」だけでなく「認知能力」双方の重要性が、中室教授へのインタビューを通じて深まりました。次の回では中室教授がトイサブ!とおこなう共同研究についてお話を伺いました。ぜひ合わせてご覧ください。
前回のインタビューをまだ読んでない方は、こちらからご覧ください。理論やデータを用いて「教育」という対象を科学的に分析する「教育経済学」についてご説明いただきました。